芝祐靖の音楽 復元正倉院楽器のための 敦煌琵琶譜による音楽
しば・すけやす・の・おんがく ふくげんしょうそういんがっき・の・ための・とんこうびわふ・に・よる・おんがく
The Music of Sukeyasu Shiba
Music based on the Dunhuang lute manuscripts
For instruments reconstructed after those of the Shōsōin
クレジット
伶楽舎
(演奏者)笙:宮田まゆみ【みやた まゆみ】 竽(う):石川高【いしかわ こう】 篳篥:中村仁美【なかむら ひとみ】 大篳篥(おおひちりき):本橋文【もとはし あや】 大篳篥(メイ):八百谷啓【やおたに さとる】 排簫(はいしょう):岩亀裕子【いわかめ ゆうこ】 正倉院尺八:笹本武志【ささもと たけし】 横笛(よこぶえ):角田眞美【つのだ まみ】 箜篌(くご):佐々木冬彦【ささき ふゆひこ】〔客演〕 阮咸(げんかん):中村かほる【なかむら かほる】 琵琶:八木千暁【やぎ ちあき】 鉄絃箏(てつげんそう):野田美香【のだ みか】 磁皷(じこ):平井裕子【ひらい ゆうこ】 方響(ほうきょう):宮丸直子【みやまる なおこ】 律鐘(りっしょう):東野珠実【とうの たまみ】 琵琶:芝祐靖【しば すけやす】[11]
収録情報
2011年2月1日 府中の森芸術劇場ウィーンホール
収録曲
復元正倉院楽器のための 敦煌琵琶譜による音楽
ふくげんしょうそういんがっき・の・ための・とんこうびわふ・に・よる・おんがく | |||
1 |
急胡相問(09'09") きゅうこそうもん Ji Huxiangwen/Kyū Kosōmon(Quick “The barbarian asks”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
2 |
傾盃楽(06'47") けいばいらく Qingbeiyue/Keibairaku(“Emptying the cup”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
3 |
風香調 調子(03'40") ふうこうちょう ちょうし Fengxiangdiao diaozi/Fukōjō chōshi(“Prelude in the fragrant breeze tuning”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
4 |
西江月(06'23") さいこうげつ Xijiangyue/Saikōgetsu(“Moon over the western river”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
5 |
慢曲子(04'49") まんきょくし Manquzi/Mankyokushi(“Slow piece”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
6 |
心事子(05'39") しんじし Xinshizi/Shinjishi(“Involvement of the heart”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
7 |
伊州(03'30") いしゅう Yizhou/Ishū(“Yizhou,” a place name) |
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作曲:芝祐靖 | |||
8 |
急曲子(03'21") きゅうきょくし Jiquzi/Kyūkyokushi(“Quick piece”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
9 |
長沙女引(11'18") ちょうさじょいん Changsha-nüyin/Chōsajoin(“Song of the Changsha maiden”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
10 |
水鼓子(04'46") すいこし Shuiguzi/Suikoshi(“Water drum melody”) |
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作曲:芝祐靖 | |||
11 |
琵琶独奏「傾盃楽」(05'55") びわどくそう「けいばいらく」 Lute(biwa)solo Qingbeiyue/Keibairaku/(“Emptying the cup”) |
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作曲:芝祐靖 |
time:0.28 s・
作品紹介
一千年の雅楽の伝統を継承し、未来への新しい扉を開く芝祐靖の遙かなる音楽世界。待望のCDシリーズがスタート。伶楽舎(音楽監督:芝祐靖)による新録音。
敦煌で発見された琵琶譜を元に、いにしえの唐代の響きを復元・創作した絢爛たる美の世界。豊饒に響き交わされる倍音と生命力に溢れた律動。千年を超えて雅楽を伝承してきた日本を代表する雅楽師・芝祐靖による画期的作品が遂にCD化!
敦煌琵琶譜にはいくつかの学問的研究もありますが、このCDをお聴きになる方には、私の復曲を通して、唐代盛期に遡っての玄宗皇帝の時代の音楽教習所[梨園]の響きをお感じ戴きますれば重畳に存じます。
(芝祐靖)
◆附属解説書38ページ
仙人の見せる夢幻の世界/岡野玲子
復元正倉院楽器の合奏のための『敦煌琵琶譜による音楽』/芝祐靖
使用楽器について/宮丸直子
英文サマリー付き(English Summary Enclosed)
世界的な笛の名手として活躍する傍ら、雅楽の伝統を深く体現した幅広い知見を礎に、雅楽の廃絶曲の復曲と作曲に長年にわたって積極的に取り組んできた芝祐靖。本作は、その独自の創作世界を堪能できる千年の奇跡とも言える作品集です。
国立劇場では1980~90年代にかけて雅楽の起源に遡及する試みと正倉院楽器の復元ならびにそれらの楽器を用いた公演活動を積極的に展開し、多くの作曲家や演奏家が深く関わりましたが、芝祐靖も雅楽師の立場からその作業に深く関わりました。本作「敦煌琵琶譜による音楽」は、その過程で合奏の作品が企画され、国立劇場からの委嘱を契機に作曲された作品です。
「敦煌琵琶譜」とは唐代末期に筆写された琵琶譜で、中国清代の1900年に、莫高窟の管理をしていた王円籙という道士によって発見され、1908年にフランス人の東洋学者ポール・ペリオ博士がこれを買い取って自国に持ち帰り、現在はパリ国立図書館に保管されています。全体は筆跡の異なる三群(全25曲)からなり、芝祐靖はこれらを1982年から1988年にかけて数度に分けて作曲していますが、今回のCDにはその中から、復元正倉院楽器の合奏のための「第2群」に当たる作品を収録しています。
敦煌琵琶譜の発見は世界の音楽史上の事件でしたが、中国では音楽文化の伝承が各時代で途絶しているため、発見当初はこの琵琶譜は解読不可能とされていました。しかし、日本における「雅楽」の伝承が古譜の解読に役立って、1937年頃より古楽研究家の林謙三によって克明に研究され、先駆的な解釈の試みが行われました。その後は、現在に至るまで世界各地の研究者や演奏家による敦煌琵琶譜に基づく復曲や復元演奏の試みが行なわれています。
そうした中にあって芝祐靖によるこの復元作曲は、雅楽の原点と本質を深い次元で把握し、また復元正倉院楽器の特質を知悉した当代随一の雅楽師としての創意に裏打ちされたものとして、極めて独自な観点を有したものです。そして、あくまでも音楽的な見地を第一義としている点が最大の特色となっています。
「琵琶譜」の解読とは、まずは調絃をつきとめ、拍節を決め、次に柱音と柱音をつなぐ隠された旋律を探り出すことです。これが作曲の内実であり、何段階にも渡る想像/創造的なプロセスを経て、最後に合奏全体のオーケストレーションが行なわれます。解説書には、こうした創作過程を譜例でご紹介しています。
本作の復元創作の参考として、最終トラック[11]には、「傾盃楽」の原譜にある琵琶譜の音のみを芝祐靖の琵琶独奏で収録しています。柱音と柱音をつなぐ中間の音を探り出し、旋律を浮かび上がらせる前の段階の響きですが、この疎らな琵琶の音がトラック[2]「傾盃楽」の絢爛たる音世界へと驚くべき変貌を遂げるさまがご理解いただけるかと思います。
解説書には作曲者・芝祐靖による詳細な長文解説原稿を収録(譜例含む)。さらには、本作で使用している復元正倉院楽器を含む全楽器を写真と解説で分かりやすく紹介。そして雅楽にも造詣が深く「陰陽師」で有名な漫画家・岡野玲子の解説「仙人の見せる夢幻の世界」は、特別書き下ろしイラストと文字原稿を組み合わせた、大変斬新なものとなっています。
芝祐靖(しば すけやす) プロフィール
1935年8月13日東京生まれ。奈良系の伶人の家に生まれたため、宮内庁楽部予科、引き続き楽生科に入学。横笛、左舞、琵琶、古代歌謡などを修め、1955年卒業。宮内庁楽師(総理府技官)として主に龍笛で活動。古典雅楽の演奏のほか、現代雅楽、現代邦楽の作曲・演奏を行い、雅楽廃絶曲の復興も手がける。1984年宮内庁を退官し、横笛演奏を中心とした活動を始める。1985年伶楽舎を結成。また、国立劇場の正倉院収蔵楽器復元に参加し、敦煌琵琶譜などの復興にも携わる。1986年よりソロ、伶楽舎ほかのアンサンブルで海外公演も行っており、古典・現代雅楽の紹介活動につとめている。2003年より日本藝術院会員。これまでに、ドートンヌ・パリ音楽祭、クフモ音楽祭(フィンランド)、ペルージア現代音楽祭、ドナウエッシンゲン現代音楽祭、ウィーン・モデルン、リンカーンセンターフェスティバル96(ニューヨーク)、武満徹フェスティバル(ロンドン)、ウルティマ音楽祭(ノルウェー)、ミュージックフロムジャパン創立30周年記念公演(ニューヨーク)、ザルツブルク・ビエンナーレなどに参加。1998年の長野冬季オリンピックの開会式では雅楽(龍笛:芝祐靖、笙:宮田まゆみ)で「君が代」を演奏、世界中に雅楽の響きの魅力を伝えた。2010年ミュージックフロムジャパン35周年記念公演では特集「芝祐靖・雅楽の宇宙」が組まれ、ニューヨークとワシントンで公演、絶賛を博した。
[主な作曲]
「舞楽風組曲」(1962)、「西寺」(1962)、「瑞霞苑」(1964)、大太鼓と龍笛のための「喜遊曲・信濃情景」(1965)、「寓話」(1966)、「横笛三章」(1970)、古代歌謡による「天地相聞」(1975)、「招韻」(1977)、「一行の賦」(1979)、「招杜羅紫苑」(1980)、「白瑠璃の碗」(1981)、「桜人」(1984)、「露台乱舞」(1988)、「斑鳩の風」(1991)、「総角の歌」(1992)、「呼韓邪單于」(1999)、「巾雫輪説」(2000)、「草庵の諧」(2003)、「ポン太と神鳴りさま」(2004)、「舞風神」(2008)、その他多数。
[主な復元曲]
「盤渉参軍」(1979)、「曹娘褌脱」(1981)、「鳥歌萬歳楽」(1982)、「青海波詠・声歌」(1995)、「拾翠楽序・破」(1996)、「清上楽」(1997)、「西王楽序・急」(1998)、「三台塩序・破」(1998)、「安城楽」(2004)、「蘭陵王荒序」(2006)、「蘭陵王嗔序」(2008)、「散吟打毬楽」(2009)、「皇帝破陣楽」(2008)、「伎楽」(1980―1992)、「敦煌琵琶譜(1986―1996)、「天平琵琶譜(1986)、その他多数。
1963年度 芝祐靖作曲「舞楽風組曲」(日本放送協会)、第18回芸術祭奨励賞受賞
1970年度 芝祐靖作曲「横笛三章」(日本放送協会)、第25回芸術祭優秀賞受賞
1975年度 芝祐靖作曲「古代歌謡による『天地相聞』」(日本放送協会)、第30回芸術祭優秀賞受賞
1987年度 第38回芸術選奨文部大臣賞「古典芸術部門」受賞
1991年度 第12回松尾芸能賞(邦楽)優秀賞受賞
1993年度 第5回飛騨古川音楽大賞特別功労賞受賞
1997年度 第27回エクソンモービル音楽賞「邦楽部門」受賞
1999年度 紫綬褒章受章、第19回伝統文化ポーラ賞受賞
2001年度 第20回中島健蔵賞特別賞受賞
2002年度 第59回恩賜賞・日本藝術院賞受賞
2009年度 旭日中綬章受章
伶楽舎(れいがくしゃ) プロフィール
雅楽の合奏研究を目的に1985年に発足した雅楽演奏グループ。音楽監督・芝祐靖。発足以来、現行の雅楽古典曲以外に、廃絶曲の復曲や正倉院楽器の復元演奏、現代作品の演奏にも積極的に取り組み、幅広い活動を展開。国内各地の他、アメリカ7市、ヨーロッパ20都市以上で演奏。古典曲や現代曲、正倉院復元楽器を使った復元曲のCD等も多数録音。特に、現代作曲家への委嘱作品や古典雅楽様式の新作の委嘱には力を入れ、年2のペースで開催している自主演奏会で度々初演〔「凛刻」(猿谷紀郎)、「夢幻の光」(西村朗)、「桜樹峨峨」(池辺晋一郎)他〕。また、武満徹「秋庭歌一具」の演奏に関しては定評があり、2002年2月中島健蔵音楽賞特別賞を受賞、自主録音したCD『秋庭歌一具』(ソニークラシカル)は平成14年度芸術祭レコード部門優秀賞受賞。他に、解説を交えた親しみやすいコンサートを企画し、雅楽への理解と普及にも努める。また、「子どものための優れた舞台芸術体験事業公演」(文化庁主催)他、小中高校生を対象としたワークショップ、レクチャーコンサートなども多く行っている。伶楽舎ホームページ
http://www.reigakusha.com