双調の曲 初世 宮下秀冽 傑作集
そうぢょう・の・きょく しょせい・みやした・しゅうれつ・けっさくしゅう
Sojo no Kyoku:The Work of Shuretsu Miyashita
収録曲
双調の曲
そうぢょう・の・きょく | |||
作曲:初世 宮下秀冽 箏:二世 宮下秀冽 | |||
1 |
序奏・第一楽章(04'34") じょそう・だいいちがくしょう |
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2 |
第二楽章(02'58") だいにがくしょう |
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3 |
第三楽章(02'47") だいさんがくしょう |
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声と三十絃と箏のための点字の詩
こえ・と・さんじゅうげん・と・ことのため・の・てんじ・の・し | |||
作詩:中勘助 / 作曲:初世 宮下秀冽 歌:田島好一 三十絃:二世 宮下秀冽 箏:国嶋秀淳 | |||
4 |
Ⅰ(05'14") 1 |
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5 |
Ⅱ(05'29") 2 |
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寿三部曲
ことぶきさんぶきょく | |||
作曲:初世 宮下秀冽 高箏独奏:二世 宮下秀冽 高箏:高橋秀清、米山秀百合、稲本秀勝、佐野秀七 低箏:糸井秀良、関口秀比佐、坪井秀知、正木秀輝 低箏:国嶋秀淳、堀井秀葉、川越秀佳 尺八:島原帆山、島原寛山 笙:多忠麿 龍笛:芝祐靖 篳篥:東儀兼彦 チェロ:飛山宣雄 打楽器:久保友子、滝本哲也 | |||
6 |
第一曲 楽(05'28") だいいっきょく らく |
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7 |
第二曲 歌(03'34") だいにきょく うた |
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8 |
第三曲 舞(04'45") だいさんきょく まい |
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夜の調
よるのしらべ | |||
作曲:初世 宮下秀冽 箏:初世 宮下秀冽 尺八:島原帆山 | |||
9 |
第一楽章 さしのぼる月(03'50") だいいちがくしょう さしのぼるつき |
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10 |
第二楽章 月下の舞(02'01") だいにがくしょう げっか・の・まい |
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11 |
第三楽章 小夜曲(03'31") だいさんがくしょう さよきょく |
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12 |
第四楽章 踊りより眠りへ(03'13") だいよんがくしょう おどり・より・ねむりへ |
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風花無限
ふうかむげん | |||
作曲:初世 宮下秀冽 指揮:三石精一 三十絃Ⅰ:二世 宮下秀冽 三十絃Ⅱ:国嶋秀淳 笙:多忠麿 龍笛:芝祐靖 篳篥:東儀兼彦 排簫:岩田英憲 篠笛:藤舎推峰(現:藤舎名生) 尺八:酒井松道 楊琴:李木蘭 サンツール他:弘雄介 チェロ:柳田耕治 打楽器:高橋美智子、藤舎呂悦、村上博美 女声:田中千恵子 男声:三室尭 | |||
13 |
第一部(06'15") だいいちぶ |
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14 |
第二部(04'08") だいにぶ |
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15 |
第三部(05'39") だいさんぶ |
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16 |
第四部(03'48") だいよんぶ |
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time:0.32 s・
作品紹介
今年2009年(平成21年)に生誕百年を迎えた初世 宮下秀冽(1909-1993)の傑作集CD(1990年ビクター発売:VICG-5085)の復刻盤。現代邦楽の世界に巨大な足跡を残した異能の作曲家による、オリジナリティに富んだ唯一無二の音の調べ。若くして視力を失うハンディを克服して音楽を学び、宮城道雄、中能島欣一、杵屋正邦と並んで邦楽の領域を幅広く探求した多彩な創作活動を展開。昭和30年代には三十絃箏を開発して邦楽の響きの可能性を拡大。その後も、シルクロードの民俗楽器への注目、無調や十二音技法、微分音の導入等、晩年に至るまで実験的な試みに挑戦し続けた。巨大なスケールを内包した作品群は、日本音楽史に燦然と輝いている。
作曲理論のたゆみない探求を経て39歳で発表した「双調の曲」(1948)は、三曲新作コンクールに入賞して邦楽会に衝撃を与えた名品。
「声と三十絃と箏のための点字の詩」(1891/rev.1987)は、点字を主題とした中勘助の詩篇に感動して、盲人のやるかたなき深い悲しみを表現した作品。微分音がたゆたい、男声がレチタティーヴォで想いを綴る。本CDでは男声は洋楽風の発声で歌われている。
「寿三部曲」(1950)は雅楽楽器群を用いた祝賀の合奏組曲。現天皇陛下ご成婚の折に作曲された。
「夜の調」(1943)は夜のさまざまな情調を表現した箏と壱越管(D管)尺八のための四楽章の作品。伝統的音階を用いた奥深い趣のなかに硬質のリリシズムを潜ませている。
「風花無限」(1982)は、シルクロードの広範な地域に分布したアジア諸民族の楽器群を数多く用い、邦楽器と洋楽器(声を含む)による大編成によって、絹の道の上で栄えては消えていった幾多の文化の姿を、吹きすさぶ流砂のなかに潜む人間の情念を思って作曲された全四部からなる壮大な作品。NHKの委嘱で作曲され、昭和57年度(第37回)芸術祭賞で優秀賞を受賞。本CDに収録されたのは、芸術祭に参加した際のNHK放送音源そのもの。特殊な楽器編成のため、本音源以外に再演されることがなかったが、今年(2009年)27年を経て、「初世宮下秀冽生誕百年記念演奏会」(国立劇場)にて舞台初演が行なわれた。
宮下秀冽さんを単に邦楽家と呼ぶのは、どうも妥当でない。山田流箏曲の伝統を踏まえる勿論第一級の邦楽人にちがいないが、作曲家としての異彩とスケールの大きさ、精力的な創作活動、ますますマルティプルに飛翔する作品群は、とても邦楽圏にとどまるものではない。半世紀ほども昔、「古典の大家となるよりも、楽器を自由に駆使して、新思想の作曲家になれ――」と教示された田辺尚雄先生の慧眼に見ごと応える達成である。(中略)
1972年(昭和47年)の芸術祭参加作品としてNHKの委嘱で書かれ、FM放送にて初披露された『竹林精舎』は、十日後に同じくFM放送で発表された湯浅譲二の『クロノプラスティク』と、ラジオ部門・音楽の部の芸術祭大賞を分かちあう、という劇的な受賞を決めた。両ヴェテランの名作が、奇しくもこのときそろって世に出たわけで、いまだに忘れ得ぬ事件として思い出深い。(後略)
上野晃(音楽評論家) CD「双調の曲」解説より
私たちの身辺には祖先の遺産たる宝玉のような芸術文化財が極めて豊富に散在しているのでありますが、これと共に東西両洋の各民族のうち立てた絢爛たる芸術の花は、多様の色彩と馥郁たる香気を放って、私達の周囲をとりまいているのであります。然も現在においては、さしたる困難もなくこれを摂取、活用し得る恵まれた時代であります。今や空には人工衛星が飛び、かつては遠隔の地も隣家と化し、まさに両洋の音楽も合流の機会が到来しつつあり、音楽も楽器も好むと好まざるとにかかわらず、ある程度の淘汰統合は免がれ得ないと思うのであります。この時にあたり、邦楽が因習にのみ捉われて、頑迷に時代の欲求を無視するならば次第に衰運の一途をたどり、音楽も楽器も現代から遊離して、遂には古典の霧の中に没し去ることになってしまうのであります。それ故に、明日のより大なる発展と飛躍とを期するためには、新しい生命をもち、又広い視野にたつ邦楽器を主体とする優れた芸術音楽が、一曲でも多く創作されていかなければならないと思うのであります。
宮下秀冽(1964年)――『神秘』楽曲解説より
初世宮下秀冽(みやした・しゅうれつ)プロフィール